「転移」ってなに?どこに行くの? |
がんが成長すると、「転移」をします。転移とは、発生した以外の場所にがん細胞が移動することです。では、どこに行くのでしょうか?
がん細胞はそれ自体に手足が生えて、やたらめったらデタラメに移動するわけではありません。腫瘍から遠ざかる「流れ」に流されていきます。どんな流れがあるのでしょうか?
一つは「血液」です。血液は、心臓から送り出された動脈によって腫瘍に酸素を供給しています。次に静脈になり腫瘍から離れていきます。静脈の行き先は消化管の場合、そのほとんどは、「門脈」という血管を通り、肝臓に流れ着きます。肝臓内で毛細血管になり、がん細胞がひっかかる、あるいは、接着因子という物質により血管内に留まったりするのです。
ここでがん細胞が増殖し、肝臓に大腸由来のがんができることになります。これを「転移性肝がん」といいます。ですから、「血液による転移は肝臓に行きやすい」ということになります。希に、肛門に極めて近い直腸がんや、肛門に発生したがんは、門脈を通らずに、直接心臓に戻り、次に送り出される「肺」に行くことになります。血行性転移で肝臓や肺に転移していても、それが、大腸がんの転移で、数が限られたものであれば、手術で切除することが可能な場合もあります。しかし、あまりに沢山の部位に転移してしまうと、切除(手術)の適応にはなりません。これ以上の話は専門的になりすぎるので、このくらいにしておきます。
もう一つの流れは「リンパ液」です。リンパ液とは少々分かりにくいかもしれませんが、動脈周囲に動脈の流れる方向とは逆方向に、細いリンパ管があり、リンパ液が流れています。所々に「リンパ節」という節々を形成しており、最終的には、大動脈の周囲を上行して、体の中枢に流れていきます。
がんを手術で切除する場合、その部位だけを切除するのではなく、リンパ節を含めた動静脈も同時に切除するのは、リンパ節を摘出、「郭清」のためなのです。しかし、これにも限界があり、大動脈周囲のリンパ節に転移してしまうと、手術により全てのがん細胞を切除することは不可能です。しかし幸いにも、大腸がんの場合、ある程度大きくなっても、他の胃がんや十二指腸がんなどに比べて、転移の頻度は少なめと言われています。
「転移があったら手術できないの?」 |
手術はします。転移がなければ、もちろん手術しますが、「転移があった」という理由では、手術をしない理由にはなりません。なぜでしょうか?
もし、放置したらどうなってしまうでしょうか?まず、根治性(完全に体からがん細胞をなくす事)が望めないとしても、大腸の場合、腫瘍の増大に伴い、出血(下血)が増加します。出血源を切除しない限り、貧血の進行は阻止できません。この理由から考えても手術が必要になることは想像できると思います。延々と失われる血液を補充(輸血)しているのでは、栓がずれた風呂釜の湯が減っていくのに対して、蛇口から水を入れているようなものです。しかし人間として、一生輸血しながら生きていく訳にはいきません。
次の問題は狭窄です。大腸が狭窄したらどうなるでしょうか?食べ物が通りません。つまり「腸閉塞」とです。
これは大変な事態です。ガス(おなら)、便が出ないという状態は、猛烈な反復する腹痛を伴います。この文章を「ふ~ん、なるほどぉ。」などと言ってのん気に読んでいられる状態ではないはずです。恐らく、救急車で病院に運ばれ、腸閉塞の診断が確定し、危険な状態と判断されれば、緊急手術になりうることも十分にあり得ます。
つまり、転移があっても、「貧血の進行を阻止する」、「腸閉塞を解除する」という事が手術を行わなくてはならない理由です。
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