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最近便が細くなってきたような…?
これって、大腸がんの兆候なの??

 兆候の可能性ではありますが、決して確率的に高い物ではありません。さらに最後に受けた内視鏡検査が5年以内であれば、その確率はさらに低くなります。

 「便が細くなるのは、大腸がんの兆候だ」と解釈している方がいます。間違いではありませんが、便が細くなる理由には様々な原因があり、大腸がんは、その多数ある原因の一つにすぎません。ですから、「便が細くなってきたから大腸がん」は、考えすぎです。

 「砂時計の砂は、どうしてあんなに細く落ちるのでしょうか?」その答えは子供でも分かりますね、「あの部位が細いから」です。

 正常な腸の内腔の広さを仮に「10」としたとき、がんの成長によってその内腔の一部が狭窄して、「2とか1」の細さになると、まさに砂時計と同じ現象が起きて、そこを通過した便は細く「加工」されて、肛門に向かう事になります。こうして、結果的に細い便が出ます。

 しかし、ここまで狭窄を伴うがんに成長するには、最低でも5~10年以上も時間がかかっていてると考えられており、便が細いという症状だけではなく、多くの場合、数ヶ月~半年も前から下血(肛門からの出血)も自覚ている人が殆どです。

 なぜ、出血という異常事態が起きているにも関わらず、数ヶ月も放置し、さらに便も細くなってきている事を自覚しながらも、さらに数ヶ月も放置して、やっと医療機関を訪れるのでしょうか?

 一つは場所の問題です。

 「肛門」という一般的に羞恥心を伴う場所である事、そして、「肛門科」という名称の医療機関を受診する「見えない羞恥心のハードル」を乗り越えなければなりません。

 そして、「私はもともと痔がある」という素人の判断で、たまに出血するのが「日常」であり、出血に慣れてしまっているということと、便が細いと言っても、急に細くなる訳ではないので、何ヶ月も経って、かなり細くなってから、「そういえば細いかな?」と、ようやく気付くのです。

 正直、このように考えている方の殆どは、これまでの人生において、大腸内視鏡検査を一度も受けた事が全くない、あるいは、受けたのは10年以上も前という方です。

 定期的に大腸内視鏡検査を受けていれば、便が細くなる前、出血する前の段階で発見され、その場で治療の方向に向かうので、がんによって細い便を経験することはまずありません。

 これが、「大腸内視鏡検査の経験がこれまで受けたごとが無い」とか、「何十年も前に受けったっきり」という人に進行したがんが多く発見される」理由です。

 腸の蠕動運動(食物や便を肛門に送る運動)によって、内容物は移動していきますが、がんによって狭くなった部位を通過する時に、その表面と擦れます。この際に、狭窄が強ければ強いほど、がんとの摩擦も大きくなり、その表面から出血する頻度・量も増えていきます。

 これが、がんによる狭窄の結果、便が細くなる事と、出血を伴っている原因です。

「がん」以外で便が細くなる原因は何でしょうか?
むしろ、がん以外の原因の方が多くあります。

 
 「便が細くて心配だ」という訴えで、大腸内視鏡検査を目的に当院を受診する方は沢山います。

 大腸内視鏡検査を日々行っておりますが、その細くなる原因が全て「がん」だったら、月に150名前後検査している当院では、何十人もの手術が必要ながん患者さんが発見される事になるでしょう。

 勿論、そんなに沢山手術が必要ながんは発見されません。当院で発見される手術が必要な方は平均して月に3~4名程度です。

 (余談になりますが、一つのクリニックで1ヶ月に3人、年間に40人前後の手術が必要な患者さんが発見されるという事は、同業者ならば分かると思いますが、異常な多さです。それだけ、大腸内視鏡検査が始めてだとか、十年以上ぶりという患者さんが、噂を聞き、わざわざ遠方から足を運んで頂き、沢山の方が当院で検査を受けに来ている事を意味しています。)

 では、がん以外で便が細くなるにはどのような原因があるのでしょうか。

 統計的に出してはいませんが、私がこれまで3万件以上の大腸内視鏡検査をしてきた経験を元に、便が細くなる原因をいくつか解説します。



1.加齢

 加齢に伴う原因は多くのケースがありますが、よく「食が細くなる」といいます。結局、入る量が減れば出る量も減ります。

 加齢と共に、食事に時間がかかるようになり、少ない量の食事をゆっくり食べれば、容易に想像がつくと思いますが、便の量も少なく、「食も細く、便も細く」なるでしょう。逆に、若くて活動的で大食漢であれば、きっと便も多くて太くて、沢山出るのではないでしょうか。

 つまり、腸に何か病気ができて、物理的に腸の直径が細くなるというような事が無いにも関わらず、生物として、加齢という要因がいわゆる「パワー・元気」を減退させる事で、便が細くなる原因の一つになります。

2.大腸憩室症(だいちょうけいしつしょう)

 加齢と共に増えてくる病気、現象ですが、腸の壁にポケットのようなへこみができます。

 特に肛門に近いS状結腸に好発します。悪い病気ではありませんが、腸が収縮する運動を担う筋肉の層の一部が希薄化して、腸の筋肉の層の隙間に、柔らかい粘膜の層が侵入して、腸の外壁にまで突出するような形状になります。

 憩室が多発すると、壁の薄い憩室が腸管の外に膨らみ、憩室のない部位の壁は肉厚になり、蠕動運動によって、収縮した時には、その内腔は鉛筆がやっと通る程に細くなり、憩室の部位が腸管の壁の外に薄い膜として膨らむような、まるで、「焼いたチクワ」のようになります。

 現在日本では、多くの腹腔鏡下手術が行われており、お腹の中の臓器を直接触る機会が以前と比較して、かなり少ない時代になってしまいましたが、私が医師になった頃は、殆ど全ての手術は開腹手術だったので、普通に生きて動いている憩室が多発したS状結腸が、蠕動で収縮した時にまるで、チクワの様になる現象を何度も見て触る機会がありました。

 チクワの様に硬い弾力のある、ある意味引き締まってしまったS状結腸を通る便は、ここで細く「加工」されているのです。このまま短い直腸を通過して排泄されるので、「細い便」となります。

3.体質(成長・加齢)による変化

 普段から便が固くて下剤を常用している方、下剤を使わなくても、適度に普通便が出ている方、普段から常に下痢に近いような便が出ている方、様々なケースがあります。

 これら全ての人が、若い頃からずっと同じ状態を継続している訳ではなく、「昔は下剤が必要だったのに、今は要らなくなった」とか、その逆とか。とにかく、様々です。

 これも「加齢」による体質の変化です。もし、以前は硬かったのに柔らかい便が出るような体質になった時、「前よりも便が細い」と感じるかもしれません。

 硬い粘土と柔らかい粘土、どちらが簡単に細くできますか?と聞かれれば、当然柔らかい方です。このような体質の変化で、細さを自覚する場合もあります。

肛門の病気で出口が細くなったり、
大腸の手術の後遺症で便の通り道が細くなる事も。

4.裂肛(れっこう)、つまり「切れ痔」

 硬い便の排泄によって、肛門が過度に拡張され、一部が裂ける事を裂肛(切れ痔)と言います。

 排泄の度に痛くて出血し、排便が済むと裂け目の拡張は終了し、それらの症状は消失するものの、また翌日の排便で同じ現象が起き、これを何ヶ月も何年も繰り返している方がいます。

 その一部の方が、ついに嫌気がマックスに到達し「肛門科」を受診する事を決意して、手術によって改善し、「もっと早くやっておけばよかった」と実感する方もとても沢山います。

 その「切れたり治ったり」を繰り返す事により、肛門の一部が硬い瘢痕(はんこん)組織によって置き換わり、肛門自体の拡張機能が徐々に失われ、肛門自体が細くなります。ここまで我慢する方は、なかなか出せない便に対し、遂に下剤を内服し始めます。

 これで便は柔らかくなり、病的に細くなった肛門を通過できるようなった便は当然細くなります。まるで、マヨネーズの太い容器から、出口の細い穴を通過して外に出るのと同じ状況になるのです。


5.肛門手術後

 我々肛門科医からすると、手術によって結果的に肛門が細くなってしまうのは、一番避けたい事ではありますが、いぼ痔、切れ痔、痔ろうなど、様々な病気に対する手術によってその傷が治る過程で、確率は高くありませんが、肛門が狭窄してしまう事も稀にあります。

 細くなってしまい、排泄に支障を来すような場合は、広げる処置だとか、手術によって対処する事もあります。

6.大腸がん術後(吻合部狭窄)

 直腸がん、S状結腸がんのなどの術後に、手術によって繋いだ場所が稀に細くなる事があり、ここを通過する便が細くなります。

 特にこれらの場所は、そのつなぎ目(吻合部)が、肛門に近いため、細く加工されてからすぐに排泄されるので、細くなったと感じます。

 あまり細くなってしまうと、その後の便の通過に支障を来す場合もあるので、狭窄の度合が強い場合には、その手術を受けた病院で内視鏡を挿入し、その狭窄した場所にバルーンを挿入し、拡張するなどの処置を行う事があります。




 さて、様々な原因で便が細くなる理由があるのはご理解頂けたと思いますが、ここを読んている方が一番心配しているのは、その細くなっている原因が「がんか、否か」という点だと思います。

 「私はこれまで、肛門で病んだ事も無いし、大腸の手術も受けた事もない。にも関わらず、便が細いのが心配で、ネットで検索して、今ここに辿り着き、今この文章を読んでいるんだ!という方もおられるでしょう。

 では、便が細くなって、何を心配しますか?やはり最もヤバい病気(大腸がん)ですよね?

 肛門からの診察では、当然ですが指の長さしか病気の有無は確認できません。1メートル以上もある大腸のがんなどの病気の存在を確かめるには、大腸内視鏡検査がベストです。

 当院では、がんの頻度が低い20代であっても、本人が「便が細くて心配だ」という方には、躊躇する事なく検査を推奨しています。もし大腸を全部観察して、病気が無ければ、それが一番安心できる材料になるからです。

 「内視鏡検査の結果、何も便が細くなる原因はありませんでした。」

 実は、これが、最も多い検査結果です(同時に、便を細くするような事のない、小さなポリープが見つかる事は、珍しくありませんが)。

 さて、当院の内視鏡検査では麻酔は一切使用しませんので、肛門付近まで内視鏡を抜きながら、同時に話をしながら検査を進めており、本人もずっと自分の腸の中の様子を見ているので、圧倒的な説得力があります。

 患者さん 「じゃあ、なんで細いのでしょうか?」

 私 「カメラも一番奥まで到達できたし、とりあえず、がんではないみたいですよ。」

 患者さん 「では、どうすればいいのでしょうか?」

 私 「一番心配している大腸がんが無いと分かったんだから、いんじゃないですか? 便が細くて困る事ありますか?」

 患者さん 「…。」

 私 「太ければ出すのも大変だし、肛門も切れて痛いし、血もでるし。細ければお尻に優しいし、楽に便が出ますよ。別に誰かと太さで勝負する訳じゃないですしね。」

 患者さん 「確かに…。」



 内視鏡検査を受けて、数分で結果がわかり、今までモヤモヤと心配していたものが一気に晴れて安心する患者さんを沢山経験してきました。

 肛門にまつわるハードルが高い故に「便が細い」をキーワードにネットで検索している方が沢山いると思います。

 もし悪い病気だったら、それが発見されたときに絶対に「もっと早く検査しておけばよかった」と後悔します。ちょっとだけ勇気を出してみる、どこで受けるか?それは別のページでも書きましたが、検査経験数の多い医師を探す事です。

 「便が細い」をキッカケに、大病になる前の段階で小さなポリープなどを発見、治療しておけば、「あの時、初めてちょっと勇気を出して、大腸内視鏡検査を受けておいてよかった」と思えるようになるはずです。

 一人で考えていても、家族、友人に相談しても、まず進展はありません。更に医師であっても、この業界に精通してしていなければ、やはり進展はありません。「大腸がん検診の便の検査だけ受けて、陰性なら大丈夫だよ」と言う医師は普通に存在します。最も正確なのは、専門としている医師に相談する事です。

 「便が細い」を検索するのではなく、大腸内視鏡検査の評判で検索するのがベストだと思います。世の中の大腸がんの手術を受ける人が一人でも少なくなる事を祈りつつ、毎日診療をしております。

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