おしりの話 |
痔という字は「やまいだれの中に寺」と書きます。この病気になったらお寺に行くしかない、つまり死んだ方がましと思って考えたのか、この字を考えた人は、かなりひどい痔の持ち主だったのかもしれません。
『ワタシノ辞書ニハ不可能トイウ字ハナイ』と言った、かの有名なナポレオンもひどい痔で悩んだということを何かの本で読んだことがあります。しかし、『痔』は漢字ですからナポレオンではなく、恐らく中国人だったのか?? 冗談はともかく、痔の痛みは種類によっては、かなりひどく、痔になった人でないと分からないとよく言われます。
痔の症状が大なり小なりある人は、かなり多いようですが、それはなぜでしょうか。
この地球上の生物は大きく『動物』と『植物』とに二分されます。
一般に植物は物を食べませんが、動物は、生きるために下等動物から高等動物、つまり人間に至るまで、全て物を食べます。食べたら出さなければなりません。動物は生きている限り『口』と『肛門』を毎日使います。使い方が悪けれぱ悪くなることもあります。全ての動物に痔があっても不思議はないのですが、下等動物には痔が少なく、高等動物に多い傾向があります。
下等動物は排泄口が1つ、つまり大便と小便が1つの穴から出るため柔らかい便になります。常に柔らかい便が出るので壊れにくいのです。高等動物は大便と小便が肛門と尿道とに分かれて出ます。従って、便秘をして便が硬くなると、排便時に強くいきんだり、肛門が切れたりして肛門にトラブルが生じやすいのです。実は、犬や猫にも痔は存在します。しかし人間に比べるとかなり少ないのはなぜでしょうか。
それは2足歩行と4足歩行の違いです。人間は立つことにより、心臓よりも低い位置にある消化管に送られた血液は、静脈となって、心臓に戻って行く時に、重力に逆らい、重力に逆らう方向に戻って行くことで、肛門周囲に重力による血流の負担がかかります。重力によって圧迫され、肛門周囲の血流が悪くなると同時に、直腸内では、便が下方向に押し出される為に、粘膜と摩擦を生じて、より痔が悪化するのです。
妊娠すると痔になる方が多いのは、さらに、胎児という大きな固体によって、静脈の還流を圧迫し、悪化させる為なのです。帝王切開による出産になら、痔は悪化しない、と思ってる方もいるようですが、それは間違いで、お腹の中に、大きな胎児が存在する事によって悪化するので、出産方法によって痔の悪化程度が左右されることはあまりません。妊娠自体が、痔の悪化のリスクファクターなのです。ですから、可能であれば、妊娠前に痔があると分かっている場合は、治療をしておいた方が良い場合もあります。
殆どの方は、歯医者さんにかかったことがあると思います。毎日物を食べていて歯を使っているから、たまに具合が悪くなっても不思議ではありません。これと同様に、肛門も毎日使う場所なので、たまには具合が悪くなることはまったく不自然な事はではないのです。
皆さんが友達から、「昨日はいなかったけど、どこかに行ってたの?」と聞かれたときに、「歯医者さんに行ってたの」とは誰でも答えられるけれども、「肛門科に行ってたの」と答えられる人は少ないでしょう。場所的に恥ずかしいからという理由は十分に理解できますが、あまり我慢し過ぎるのも禁物です。本当に「痔の悪化」だけならいいのですが、中には悪性腫瘍(がん)の影響で、具合が悪くなっている場合もあります。
痔自体にも、早い段階から、遅い段階まで存在します。どんな病気にも言えることですが、早いに越したことはありません。素人的な判断は限界がありますので、少しでも勇気を出して、専門とした医師の受診をすることをお勧めします。