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肛門科を受診するキッカケとは…!?
 例えば歯医者さんとは違って、なかなか「ハードル」の高い肛門科に「勇気」を出して受診する方のキッカケは多種多様です。

 仕事の合間に「ちょっと行ってくるね!」と言って「どこに?」と尋ねられても、「ちょっと歯医者さんに。」と返答する事ができても、なかなか「ちょっと肛門科に!」と言えないのは、雰囲気的にご理解いただけると思います。

 「肛門科」という標榜には、見えない敷居、ハードルがあります。その理由は単純で、「恥ずかしいから」という以外に理由はありません。そんな肛門科ですが、私達は、当然ですが、その羞恥心のハードルを越えて、受診してきた方を毎日診療しています。患者様は老若男女です。意外と、初めて当院を訪れた時、「え!?こんなに若い人たちもいるの?」と驚きを語ってくれた患者様も珍しくありません。

 私達が、「どうして受診する気になったの?」と質問するのもどうなのかと思いますが、そこをあえて逆手にとって聞いてみますと、様々な理由があります。

  「ある日突然」 … 痛くなった・シコリができた・出血した

 特に、これまで全く肛門に違和感も、何も気にするような事などなかったのに、このような理由で受診された方は、とても慎重派で、小さな事でも気になり、恥ずかしいなんて言ってられない!羞恥心のハードルよりも、病気の方が心配!という方です。実は、このような経緯で、発症から受診までの時間が短いほうが治療は楽な事が多く、患者様自身も、治療に要する労力は最低限に済むことが多いのが事実です。

 次に、何か月も前から違和感、異変を感じていたのは分かっていたけども、場所が場所だけに、そんなに日常生活に支障を来すほどでもないし…、という理由で「羞恥心」を超える事ができず、特に医療機関も受診せずに「暖める方」がいます。そこで「ある日突然」が起こるのです。病気の種類によって、もちろん治療が薬だけで終わる事もあれば、手術が必要になるケースもあります。

 とりあえず、「ある日突然」の前日の状態に戻ってくれればいい、あるいは、軽い違和感はあるけども、今までの日常生活に戻れればいい、という方もいますが、これを機会に、違和感の無い状態にまで、手術をしてでも治してしまおうか?と考える方もおります。

 さらには、既に何十年も肛門の違和感を感じており、「ある日突然」が発症する場合もあります。ここまで時間が経過していますと、薬だけで一時的な変化を治す事はできても、元通りの何も違和感のないお尻に戻すというのは困難で、手術が必要なる可能性はより高くなる傾向にあります。

 あるいは、何十年も違和感を自覚していても、「ある日突然」が無くても、受診される方もいます。「お産から、もう何十年も前から、出っ張りがある、違和感があるのは知っていた」と言う方は非常に多いのですが、それはそれで「慣れきってしまったお尻の現状」があるにも関わらず、治療目的に受診する理由には次のような事情があるようです(実際に患者さんに聞いて得られたお話です)。

①体が不自由になる前に、今のうち(元気なうち)に治せるものは治しておこう → 将来、脳梗塞や心筋梗塞など、血液をサラサラにする、いわゆる抗凝固剤を継続的に内服する状態になると、うっかり手術はできないので、非常に賢明な判断だと思います。

②転職の境目に、時間が取れた → 仕事にばかり追われていて、治療のタイミングを得られなった方は、このような理由で受診する方もいます。

③次の妊娠前に治しておこうかと → とても賢明な理由です。妊娠自体が痔の悪化を招くので、ある程度の大きさがあるのならば、妊娠前に治療しておくのはとても大切です。

④定年になったので、時間が取れるようになった → これからの「第三の人生を、お尻なんかで悩んで過ごしたくない」という気持ちで、このタイミングで治してしまおうと数年前から決めていた、という方もいます。

⑤子育てが一段落したので、次は自分の為にと考えるようになった → 理由はなんであれ、「自分の時間がとれるようになった」というのは、やはりおおきなキッカケになるようです。

⑥介護が一段落したので → 背景にある理由はなんとなく想像できますが、それはさておき、やはり時間を自分の為に使う余裕ができたからだと思います。

⑦友人、知人、近所の人が当院で実は手術を受けた事を聞いて、自分も治療を受ける決心がついた → ランチで話が盛り上がって、偶然お尻の話になり、そんな話を目の当たりにして、勇気をもらうようです。

⑧将来、人様の世話になる時が来るかもしれない。そんな時に、こんな肛門を見せられない → 特に、介護職員などの方は、目の当たりにしていますので、このような理由をお持ちの方がおります。

⑨恥ずかしくなくなったから → これを言った患者様は、71歳の女性でした。どのようなタイミングで、そのような心境の変化があったのかは分かりませんが、非常にインパクトの残る理由でした。


 さてこのように、皆様、多種多様な理由で当院を受診されております。

 素人では肛門の病気は全て「痔」という言葉で片付けられてしまいますが、当然ですが、肛門の病気はいくつもの種類があります。痛くなる、シコリができる、出血する、どれも肛門疾患の代表的な症状なのですが、肛門の病気に特有の症状ではありません。つまり、肛門の病気以外にも、そのような症状が現れる病気があるので、我々は、その「鑑別」をする必要があり、それが仕事です。


 皆様が最も心配している、肛門の病気以外で気になる病気はなんですか?それは、もちろん「大腸がん」ではありませんか?

 我々医師は、常に最悪の病気を考えて診療をしています。まずは、その気になる症状が、お尻の「良性疾患」(いわゆる痔の類)なのか、大腸がんに代表される「悪性疾患」なのか、あるいは、両方あるのかを常に考えています。もし、悪性の病気があるのなら、呑気に良性疾患の治療をしている場合ではりません。物事には順序というものがありますので、多くの場合は、悪性疾患の治療が先行されるのは容易に想像がつくと思います。

 上に述べたように、どのタイミングで肛門科を受診されるのかは、個人の考え方に全て依存しています。しかし、「痔だと思ったらがんだった」という言葉は非常によく耳にします。もし、そう思って、症状があったにも関わらず、素人判断で受診するタイミングが遅くなり、その原因が悪性腫瘍であったら、病気の進行を促してしまう結果になるのです。

 日常の診療で、「命に関わる(悪性疾患の)病気も、そうではない(良性疾患の)病気も、大きいものを治療するには、お互い大変だから、どうせなら、小さいうちに早く見つけて治療しておいた方がいいですよ」とよく言います。

 良性疾患の痔に関して言えば、薬だけでは治る見込みのない、手術が必要だけれども、まだ小さいので、局所麻酔だけで短時間で治せるものもあれば、下半身麻酔が必要で、1~2週間もの入院を強いられるものまであります。

 これが、悪性疾患で言えば、小さなポリープの中に混在していた、その場で内視鏡で簡単に治療ができる段階のがんもあれば、外科手術でも切除しきれない範囲にまで広がってしまった、いわゆるステージ4の大腸がんまであるのです。

 痔の治療であれば、「今回の治療はちょっと大変だった…。二度とあんな経験はしたくないから、次回は気になる事があったら、すぐに肛門科に行く。二度と切られてたまるか!」と思い、早めに受診される方は結構沢山いらっしゃいます。つまり、一回治療したことによって、「肛門科受診のハードル」が顕著に低下したのです。

 まだこのように後悔できるのならいいのですが、悪性疾患の場合、後悔するような段階で発見されたら、やり直しはききません。

 大腸がんは、早く見つかれば、ほぼ治るがんなのです。ではなぜ、日本人の死亡原因の悪性腫瘍の中で「上位」にあるのでしょうか?理由は簡単です。早い段階で見つかっていない方が多いからです。早い段階で発見されれば、大腸がんが原因で亡くなるという事は、ほぼあり得ません。

 もったいないと思いませんか?それが、知人、友人、家族、兄弟だったら…。大腸がんで、無駄に命を落とさない方法は、決して難しい話ではありません。肛門に生じた何らかの症状に対して、素人判断で「痔」と決めつけず、羞恥心は適度にしておき、専門としている医師の診察を早い段階で受けるだけです。さらに言えば、何の症状がなくても、40歳という年齢を迎えたら、まずは大腸内視鏡検査を受けておく事です。

 もし、兄弟や親が若い段階で大腸に限らず、どこかの悪性腫瘍の病気を経験していたのなら、40歳を待たずに、30代でも検査を一回受けておくことが非常に大切です。

 知人が受けた大腸内視鏡検査の体験が「とても大変だった」という話を聞かされたり、自身の病気の発見を怖がって検査を先延ばしにしていたら、ある時、何かしらの理由で検査を受けざるを得ない状況となり、その結果大変な病気が見つかったとなれば、検査を躊躇していた事を必ず後悔します。

 そういう方を沢山見ているので、少しでも後悔する方が減り、無駄に命を落とす人が一人でも減る事を祈り、文章にしました。皆様の人生の今後の参考になれば幸いです。

 最後に、別のページでも述べていますが、「知人が受けた大腸内視鏡検査が大変だった」という話を聞いた時、「大腸内視鏡検査=大変な検査」と理解してはいけません。そう考えると、どこで受けても大腸内視鏡検査は大変なものなのだ、という事になりますが実際は違います。

 自分の為に、有用な情報を得るためには、「その検査をどこで受けたのか」を聞いておく必要があります。そのような情報を知ったり、ネットで評判の良い、自宅から行くことができる距離の医療機関を調べて定期的に検査を受ける場所を特定しておく事が非常に大切です。

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