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「便潜血検査の罠(わな)
「毎年この検査をしておけば安心!」と思っていませんか?
 → 実は
「No!!」です。その理由を解説いたします。

 ここで、大腸がん検診として、現在日本で広く行われている「便潜血検査」について解説をします。

 40歳を越えると、受けることを催促される通知が来たり、仕事場などの検診の一部に導入されます。

 この検査は、便の表面を擦って、検体を提出し、血液が付着の有無をみている「だけ」の検査です。多くは二日法で行われます。体に何を挿入する訳でもなく、負担も少なく、簡単で苦しくなく、非常に楽な検査です。そして、血液成分が検出されれば、さらなる大腸の精密検査(内視鏡検査)を催促される、というものです。

 この検査で陽性率は約6~7%と言われています、では、陽性になる病気にはどのようなものがあるのでしょうか?

 大腸がん(結腸がん、直腸がん)、ポリープ、大腸炎症性疾患(憩室炎、クローン病、潰瘍性大腸炎、感染症による大腸炎など)、内痔核・外痔核(いぼ痔)、裂肛(切れ痔)、痔瘻、脱肛、などの肛門疾患、そして出血量が多ければ、小腸よりも上(口側)の出血する病気(食道がん、食道潰瘍、食道静脈瘤破裂、胃潰瘍、胃がん、十二指腸潰瘍、十二指腸がん)などでも可能性があり、その種類は非常に沢山あります。

 つまり、口から肛門までの長い消化管のどこかで出血する病気、全てにおいて可能性があります。しかし、「可能性」だけの話をすると、陽性の原因のほとんどは、肛門周囲の病気(イボ痔や、切れ痔)です。

 陽性と判定され、内視鏡検査を受けても、大腸に原因が発見されなければ、陽性の原因は「たまたま頑張って便を出した時に肛門の一部がピピッと切れて血がついてしまったのではないか?」という事になります。結局、便潜血検査で陽性と出たにも関わらず、大腸に病気が無い事が殆どなのです。

 つまり、便の表面の一部に血液が有るか無いかだけで、「病気の可能性が少し高い集団」「病気の可能性の低い集団」とに、おおざっぱに二分しているだけなのです。大腸の病気が「ある」「無い」とか、内視鏡検査の必要性が「ある」「ない」という群に分けている訳ではありません。

 「陽性」であっても、十中八九は病気が無い、つまり「空振りだらけ」の検査なのです。大腸がんの発見を目的とした便潜血検査が陽性になって、内視鏡検査を受けても、陽性者の中から目的とした大腸がんが発見される率は、3~4%程度です。

 当院で内視鏡を受ける患者様の全てが、便潜血検査で陽性なった訳ではありませんが、当院の統計では、内視鏡検査を受けた人の約10%に、内視鏡的で治療が可能なポリープ(良性・悪性を含む)が発見され、さらに3~4%に手術が必要な大腸がんが発見されるので、「陽性」になったのなら、当然内視鏡検査が必要になります。

 この文章を今読んでいる方の中には、恐らく「陽性」の通知が届いて、不安で読んでいる方もいると思います。でも、残念なのは、もし「陰性」だったら、ネットで検索することもなく、きっと、この文章まで辿り着いていないかったかもしれない、という事です。

 ◎便潜血検査「陰性」ならば、大腸の精密検査は必要ないのか?

 普通に考えればそう理解してしまいます。その原因は便潜血検査のキットに添付されている説明が「説明不足」だからです。普通に考えると、以下のようになります。

 「陽性なら、精密検査(大腸内視鏡検査)を受けて下さい」という事は、「陰性ならば、精密検査は必要ない」と思うのはごく自然な考え方なのですが、これが国民に大きな誤解、後悔の要因となっています。

 「陰性」の殆どの方は、大腸内視鏡検査を受けに来ません。しかし、便潜血検査の説明書には、陰性であった場合に、「今年、あなたの大腸に、がんやポリープなどの治療が必要な病気はありませんので、大腸内視鏡検査を受ける必要はありません。」とは、どこにも書いてはありません。

 ちなみに、我々医療人からすれば、見てもない(内視鏡で大腸の表面を直接観察してもない)のに、そんな恐ろしいコメントを患者さまに言える訳がありません。ならば、なぜ検診で陰性でも病気がある事があるのでしょうか?

 がんやポリープの表面は、出血しやすい、もろい構造になっています。例えば、「昨日擦りむいた傷」の様なものです。つまり、まだカサブタができていない、ちょっと擦れば出血してしまうような状態と考えて頂ければよいと思います。

 昨日は出血しても、今日は出血していませんよね?それは、血中にある「血小板」の作用によって、血管の損傷部位が修復されるので数分後に止まるのです。ポリープやがんの表面も、全く同じ理由で、便との摩擦で出血しても、しばらくすると止血します。また、摩擦の程度が軽ければ出血しないという事も普通に考えられます。

 つまり、出血していないタイミングで検査をすれば、当然「陰性」となります。また、小さながんが、せっかく出血してくれていても、目の前を流れる大量の便の表面に、均等に血液が付着するとは思えません。血液が付着していない部位を擦って提出すれば当然「陰性」という結果になります。

 結局、便潜血検査は、「がんがあっても陰性になってしまう」こともあり、「がんがなくても、痔などで出血していれば、陽性になる」ということです。つまり、その程度の検査でしかないのです。

 では、なぜその程度の「いい加減な検査」と言っても過言ではないような検査を、職場や市町村の大腸がん検診で広く行われているのでしょうか?それは、大腸内視鏡検査を受ける気が全くのない人を「受ける気にさせる力がある」からです。

 検診の結果、陽性ならば内視鏡検査を受けるよう指示される通知が届きます。ですから、「イイカゲンな検査」でも、「陽性」と判断された人にとっては、「効果」のあるので、広く行われているのです。

 しかし、実際問題、「陽性」と判定されても、内視鏡検査を受ける人は60%程度だという全国の統計が結果も出ています。残りの40%の人は、内視鏡検査を受けないのですから、何の為に便潜血検査を受けているのか?という事になってしまいます。

 便潜血検査「陰性」のメッセージとは、「今年、あなたの大腸に治療が必要な病気はありません。精密検査は不要です」ではないのです。しかし、大半の方がそう解釈し、「今年も内視鏡検査受けずに済んだ!」と思い、また来年「いい加減な検査」を受けるのです。

 正しい便潜血陰性の意味とは、「あなたが今回提出した検体に血液は付いていませんでした。」というだけです。内視鏡検査は不要です、という事は言っていません。

●病気があっても「陰性」になることがある。つまり、「陰性」は病気がない事を意味しているものではない。
●「陰性」は、内視鏡検査が不要という意味ではない。
●「陽性」と判定されても、手術が必要な大腸がんは数%にすぎない。95%以上は手術の必要はない。
●「陽性」は、大腸にがんがある、という意味ではない。
●「陽性」と判断されても、十中八九は、良性の病気だが、大腸内視鏡検査を受けないとその判定は得られない。

 つまり、便潜血検査は、内視鏡検査が必要、不必要かを判断できるレベルの検査ではありません。便潜血検査の結果は、陽性でも陰性でも、内視鏡検査は受けておかないといけない検査なのです。便潜血検査の結果で、その後の行動に差が生じる事はないということです。

◎ならば、便潜血検査は不要なのではないか? → やっと気付いてくれましたか?

 大腸のポリープやがんは、一般的に、急に成長するものではありません。ですから、内視鏡検査は毎年受ける必要は原則ありません。多くても2年に一度くらいで受けておけば十分と言われています。これくらいの頻度で受けておけば、「将来がんに成長するポリープも、内視鏡で簡単に治療ができるサイズのうちに発見できる可能性が高くなる」という事が期待できます。

 ここであえて「可能性が高い」と表現した理由は、「100%ではない」という事を意味しています。定期的に検査を受けておけば、絶対に、100%見つかるよ!とは言えません。中には、定期的にしていたにもかかわらず、大腸がんの手術を回避できなかったケースも、ごくわずかいるのも事実です。

 便潜血検査の最大の目的は、内視鏡検査を受ける勇気を与える事です。しかし、既に「任意」で定期的に内視鏡検査を受けている人は、その「勇気」を持っていますので、今後、便潜血検査を受ける必要はありません。ですが職場などで、任意ではなく、「強制的」に受けなければならないという状況にあれば、当然受けて下さい。

 早期発見に有効と信じていた便潜血検査が、上に述べた理由で陽性になってくれず、今、内視鏡検査を受ければ、手術を回避できる病気が発見できるのに、そのチャンスを失ってしまっている人もいるのです。つまり早期発見のための検査が、逆に早期発見の妨げとなっているのも現状です。

 では、病気があるのに、検診で陰性と判断された方はどうなるのでしょうか?当然、検査を受けに来ない訳ですから、その見逃された病変は、一年間成長する時間を与えられたという事になります。

 一年間成長し、少し大きくなったにも関わらず、また来年陰性と判定されれば、もう一年、さらに次の年も「陰性」ならもう一年成長・・・ という繰り返しです。そうこうしているうちに、病気はスクスク大きくなって、次第に出血する日も、量も増えてきます。

 毎年律儀に便潜血検査を受けていれば、いずれ「陽性」となる年がやってきます。始めて「陽性」の結果を受けた時、重い腰がようやく持ちあがり、「仕方ないな、内視鏡検査とやらを受けてみるか」と思い、受けてみたら、「時すでに遅し」で、既に手術が必要な段階になってようやく発見される方も、実は全く珍しくありません。

 「便潜血検査は、これまで10年以、毎年受けてきた。過去に一度も「陽性」の判定は受けた事はない。今年初めての陽性で、初めて受けた大腸内視鏡検査だったんだ!」という状況下であるにも関わらず、「これは内視鏡治療では切除できません。手術が必要です」という病気が発見される事は、残念ながら珍しい話ではありません。

 「あぁ、また便潜血検査のカラクリで、犠牲になってしまった患者様と遭遇してしまった」と我々はその時必ず思います。その患者様は「え!?どうして??私は毎年検診(便潜血検査)を受けてきたのに…。アレを毎年受けていれば、大腸がんは大丈夫と思ってた」と、必ず後悔します。

 つまり、毎年便潜血検査をして、陽性になった年にだけ、内視鏡検査を受けていたのでは、大腸がんの手術は回避しきれないという事です。「そんなの知らなかった」と後悔する人を一人でも少なくするために、ここで事実を述べているのです。

 「私は便潜血検査で陽性になった年しか、大腸内視鏡検査を受ける気がない」と考えている人の中には、「将来大腸がんの手術を受ける運命になっている」という人がいるのです。その「運命」を回避するには何が必要でしょうか?それは、まず内視鏡検査を受ける事です。

 もし、40歳以上で、内視鏡をこれまで一度も受けていのなら、是非受ける事をお勧めします。いつ受けるのか?→「今です」。

◎結局は便潜血検査は「見逃される」という事です。 どれくらい見逃されるかご存知ですか?

 とある統計によると、「治療には、内視鏡切除ではなく、外科的な手術が必要です」というがんがある人の10人が便潜血検査をすると、1人、時には2人が「陰性」(10~20%)と判断されます。さらに驚くことに、「手術は不要で、内視鏡で切除が可能ながん」がある人の陽性率はたったの50%です。

 しかし、「陽性」と判断されても、病気のない空振りだらけというのも話しました。これくらい「イイカゲン」な検査なのです。

 ◎皆さんは、大腸がん検診(便潜血検査)に、何を期待しますか?

 「大腸がんで死なない事」 → もちろんそうでしょう。ならば、手術をするかもしれないけど、死ななければいいですか?
 「それはちょっと…。手術はしたくない。」 → 誰もがそう思うはずです。
 「毎年、便潜血検査をしていれば、手術を回避できるのでは?」 → それは「No」だという事を説明してきました。

 大腸に病気が発見された時、人はどこで後悔するのでしょうか?

 それは、その病気の治療法に「手術」が選択された時です。ここで言う手術とは、外科医による開腹手術や、腹腔鏡手術を意味します。もっと早い時期に検査をしてポリープを発見しておけば、「手術」なんてことにならなくて済んだのに・・・と後悔するのです。

 「この病気の治療には、内視鏡で切除しなければなりません」と言われた時、「もっと早くやっておけば、内視鏡で切除する必要にならなかったのに・・」という事にはなりません。できるものはできます。

 内視鏡で切除できるような病変が発見されても、皮膚にメスを加える事なく切除できる訳ですから、少しも後悔する必要はありません。ポリープの大きさにもよりますが、あえて負担と言えば、「また下剤を飲まないといけない、数日の安静、あるいは数日の入院」くらいでしょうか。

 手術を受けるのと比べれば、はるかに少ない負担で治療ができるのです。ですから、定期的に大腸内視鏡検査を受けるということは、高率に大腸の手術を回避することに直結するのです。全ての国民が望むものは、「手術を回避する事」です。その率を高くするには「毎年の便潜血検査」ではなく、「2年に一度の内視鏡検査」です。

 知人が、毎年便の検査をしていて、今年初めて2回のうち、1回が「陽性」となって、近くの医院で内視鏡検査を受けたら「がん」が見つかって、〇〇病院で手術して、今は元気にしてる。


 一見、どこにでもあるような話ですが、毎年便潜血検査をしていたにも関わらず、手術が回避できなかった、という事と、手術が必要ながんがあったにもかかわらず、1回が「陰性」と判定されている事に注目しなければなりません。

 もし、便潜血検査の二日間が一日ずれて、両方とも陰性と判定されれば、きっと、内視鏡検査を受ける事はなかったでしょう。そう判定されれば、そのがんは、もう一年成長の時間を与えられ、さらに成長して、転移などを来してからようやく発見される、という事になっていたかもしれません。

 大腸がんの場合、検診で発見されたがんと、症状が出てから発見されたがんの治療後の生存率が、前者では9割、後者では6割という結果でした。この結果から、「検診は非常に大切です、みなさんも是非受けましょう」という趣旨の記事が2014年7月の埼玉新聞の一面に掲載されました。


 ここで疑問に考えないといけないのは、検診で見つかったにもかかわらず、1割の方がお亡くなりになっている、という点です。死亡するということは、肝臓や肺への「遠隔転移」または、「手術でも切除不可能な遠隔のリンパ節への転移」が既にあったという事で、手術が回避できるというレベルのお話ではない、という事です。

 なぜ、国は便潜血検査を勧めているのか?

 それは、「国民(という大きな母集団)の大腸がんによる死亡数を減らす」事が目的だからです。確かに、便潜血検査は一部の人に内視鏡検査を受ける勇気を与え、病気が発見されれば、その場で治療ができ、結果的に大腸がんによる死亡数は減少します。しかし、これはあくまでも「国家的意義」で、「母集団で減っている」だけの話です。

 上の記事は、便潜血検査というのは、100人の大腸がん手術後の5年後の生存数を90人程度に増やす力しかないという事を言っているのです。10人が救えていないのです。でも、国の方針としては死亡数の低下が目的なので、「とりあえず目標は達成している」という事になります。

 そうじゃないですよね!?個人の問題なんです。1人という人間が大腸がんで死亡する数を0にしないといけないのです。個人の希望は、「大腸がんで死なないで済む」とか、「大腸がんの手術5年後に生きている」という事ではありません!!最大の目標は、「手術を回避すること」です。それを現実のものにするには、便潜血検査では到底力不足なのです。

 そもそも、なぜ便潜血検査は2回、採取するのか考えた事はありますか?

 答えは簡単です。「イイカゲンだから」です。がんがあるのかないのか、正確に判断できるのなら、一回(一日)でいいと思いませんか?

 結局二日間(2回)調べるということは、「がんがあっても、うまく血液が採取できない可能性があるから、二回取りましょう」という事で二日法なのです。2回行う事で「可能性を上げているだけ」、「そもそも不完全な検査」という事を暴露しているようなものです。「下手な鉄砲も、数打てば当たる」という事です。

 そんな力不足の検査の結果が「一日目が陽性(陰性)で、二日目が陰性(陽性)だった」とか、あるいは「(+)、(++)だった、数値がいくつだった」、とか、去年が陰性(あるいは陽性)で、今年は陽性(あるいは陰性)だったとか、病気の可能性がどうだとか…。

 そんな議論をしているサイトも見かけますが、そんな話をしている暇があるのなら、信頼できる楽な大腸内視鏡検査を提供している医療機関を見つけて、内視鏡検査を受け、今現在自分の大腸に治療すべき病気があるのか無いのか、さっさと白黒ハッキリさせてしまえばいいだけの話です。

 大腸内視鏡検査をせずに、アレコレ調べていても正直時間の無駄以外の何物でもありません。ここまで読んで頂けた方は、「便潜血検査は不確実な検査」なんだ、と理解していただけたと思います。

 日本人女性のがんの死因トップ、日本人として、かかるがんとして1位の大腸がん(2014年の国立がん研究センターの統計結果)なのですから、自覚症状がなくても、40歳を越えたらまず内視鏡検査、その後も定期的(2年に一回程度)に受ける事が、どれだけの価値(手術回避の可能性を高くすることができる価値)があるかを考えて頂ければ幸いです。

 当クリニックで、残念ながら手術が必要な大腸がんが発見されてしまい、近隣のがん専門病院(主に群馬県立がんセンター)に紹介し、私自身はその病院に内視鏡検査をする目的で勤務をしているのですが、そのついでに患者様の術前・術後に「お見舞い」に行くようにしています。

 そうすると、必ず患者様は言います。「見つけてくれてありがとうございました。それと、こんな経験(手術)をするのなら、定期的に検査を受けておけばよかった」と。

 大腸内視鏡検査は大変な検査、という風評がありますが、ネットで賢く探せば、決して思うほど大変な検査ではありません。麻酔をかける事もなく、胃カメラよりも楽だったという印象を与えてくれる医療機関もあります。是非、ちょっと勇気をだして、評判のよい医療機関を探して、是非定期的に内視鏡検査を受けてみてください。


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